大沢在昌著「風化水脈」(新宿鮫VIII)より
動機のほとんどは単純で、行動は短絡している。手段だけが進歩し、複雑化している。
技術は進歩している。日進月歩で、あるいは分進秒歩で。
人の暮らしも格段に向上している。全ての国の人々がという訳にはいかないが、少なくとも日本の暮らし、衣食住はとても恵まれている環境だと思う
数十年の歴史の中でこれほどの変化がもたらされているのは驚くべきことだ。その時々の変化は緩やかなもので普段は変化自体を意識することは少ないかもしれない。でも、気付いてみれば我々の生活は一昔前の王侯貴族のような生活を味わうこともできるし、世界の至るところへ行くことができる手段を誰もが手に入れることが可能な世の中になっている
手段は進歩して便利さや効率は向上したが、人のこころはどれほど進歩しただろう?
人が争う原因は昔から変らないんじゃないだろうか。行動の動機は単純で、欲求と感情に突き動かされて小さなきっかけで事件が発生する。構造はシンプルなのにまわりの環境が複雑化しているから物事が複雑になっているように感じているだけなんじゃないかと問いかけられているようだ。
人が使うツールは便利になって時間の自由も多くなって、可能性は増えているのに使う人間の心の進歩はとてもゆっくりだ
こころの継承は技術の継承のように楽じゃない。技術のようにこころも継承できたなら、人はもっと進化しているだろう。継承するための知恵は先人の残してくれた遺産の中に詰まっているのに、人は自分が経験するまでは本当の意味で理解することができない。だから歴史は繰り返す。いつの時代も言葉を替えて同じ教訓が伝え続けられているのはこういうことだったのか
せっかく手に入れた時間を無駄遣いしてしまうのはもったいない
少しでもこころを豊かにしていこう